吾輩は近頃運動を始めた猫の癖に運動なんて
海水浴は追って実行する事にして、運動だけは取りあえずやる事に取り
横町を左へ折れると向うに高いとよ竹のようなものが
何が奇観だ 何が奇観だって吾輩はこれを口にするを
衣服はかくのごとく人間にも大事なものである人間が衣服か、衣服が囚間かと云うくらい重要な条件である。人間の歴史は肉の歴史にあらず、骨の歴史にあらず、血の歴史にあらず、単に衣服の歴史であると申したいくらいだだから衣服を着けない人間を見ると人間らしい感じがしない。まるで
しかるに紟吾輩が
何だかごちゃごちゃしていて
天水桶はこのくらいにして、白い湯の方を見るとこれはまた非常な
しばらくは爺さんの方へ気を取られて他の化物の事は全く忘れていたのみならず、苦しそうにすくんでいた主人さえ記憶の
二年の留学中ただ一度
を見物した事があるその
再び行こうと思った日もあるがやめにした。人から誘われた事もあるが
った一度で得た記憶を二
い去るのはもっとも残念だ。「塔」の見物は一度に限ると思う
もないうちの事である。その頃は方角もよく分らんし、地理などは
り出されたような心持ちであった表へ出れば人の波にさらわれるかと思い、
に帰れば汽車が自分の部屋に衝突しはせぬかと疑い、
安き心はなかった。この響き、この群集の中に二年住んでいたら
のごとくべとべとになるだろうとマクス?ノルダウの退化論を今さらのごとく大真理と思う折さえあった
は他の日本人のごとく紹介状を持って世話になりに行く
もなく、また在留の旧知とては無論ない身の上であるから、
ながら一枚の地図を案内として毎日見物のためもしくは
のため出あるかねばならなかった。
汽車へは乗らない、馬車へも乗れない、
な交通機関を利用しようとすると、どこへ連れて行かれるか分らないこの広い
十字に往来する汽車も馬車も電気鉄道も鋼条鉄道も余には何らの便宜をも与える事が出来なかった。余はやむを得ないから四ツ角へ出るたびに地図を
いて通行人に押し返されながら足の向く方角を定める地図で知れぬ時は人に聞く、人に聞いて知れぬ時は巡査を探す、巡査でゆかぬ時はまたほかの囚に尋ねる、何人でも
の行く人に出逢うまでは捕えては聞き呼び掛けては聞く。かくしてようやくわが指定の地に至るのである
「塔」を見物したのはあたかもこの方法に依らねば外出の出来ぬ時代の事と思う。
めくが、余はどの路を通って「塔」に着したかまたいかなる町を横ぎって
に帰ったかいまだに判然しないどう考えても思い出せぬ。ただ「塔」を見物しただけはたしかである「塔」その粅の光景は今でもありありと眼に浮べる事が出来る。前はと問われると困る、
はと尋ねられても返答し得ぬただ前を忘れ後を
もなく奣るい。あたかも闇を
く稲妻の眉に落つると見えて消えたる
倫敦塔の歴史は英国の歴史を
じ詰めたものである過去と云う
を二十世紀の上に反射するものは倫敦塔である。すべてを葬る時の流れが
しまに戻って古代の一片が現代に
い来れりとも見るべきは倫敦塔である人の血、人の肉、人の罪が結晶して馬、車、汽車の中に取り残されたるは倫敦塔である。
の上からテームス河を隔てて眼の前に望んだとき、余は今の人かはた
えの人かと思うまで我を忘れて余念もなく
め入った冬の初めとはいいながら物靜かな日である。空は
ぜたような色をして低く塔の上に垂れ懸っている壁土を
し込んだように見ゆるテームスの流れは波も立てず音もせず
に動いているかと思わるる。
塔の下を行く風なき河に帆をあやつるのだから不規則な三角形の白き翼がいつまでも同じ所に
ぐ、これもほとんど動かない。塔橋の
のあたりには白き影がちらちらする、
であろう見渡したところすべての物が静かである。
げに見える、眠っている、皆過去の感じであるそうしてその中に冷然と二十世紀を
するように立っているのが倫敦塔である。汽車も走れ、電車も走れ、いやしくも歴史の有らん限りは我のみはかくてあるべしと云わぬばかりに立っているその偉大なるには今さらのように驚かれた。この建築を俗に塔と
えているが塔と云うは単に名前のみで実は
りたるものいろいろの形状はあるが、いずれも陰気な灰色をして前世紀の
に伝えんと誓えるごとく見える
を石で造って二三十並べてそうしてそれを
いたらあるいはこの「塔」に似たものは出来上りはしまいかと考えた。余はまだ
めているセピヤ色の水分をもって
したる空気の中にぼんやり立って眺めている。二十世紀の倫敦がわが心の
から次第に消え去ると同時に眼前の塔影が
のごとき過去の歴史を吾が
き出して来る朝起きて
くように感ぜらるる。しばらくすると向う岸から長い手を出して余を
して身動きもしなかった余は急に川を渡って塔に行きたくなった長い手はなおなお強く余を引く。余はたちまち歩を移して塔橋を渡り懸けた長い手はぐいぐい
く。塔橋を渡ってからは
を吸収しおわった門を
永劫の
迷惑の囚と
正義は高き
我が前に
この門を過ぎんとするものはいっさいの
んではないかと思った。余はこの時すでに
にかけてある石橋を渡って行くと向うに一つの塔があるこれは
で石油タンクの状をなしてあたかも巨人の門柱のごとく左右に
へ抜ける。中塔とはこの事である少し行くと左手に
のごとく見えて敵遠くより寄すると知れば塔上の鐘を鳴らす。星黒き夜、
の影より闇に消ゆるときも塔上の鐘を鳴らす心
のごとく塔下に押し寄せて
めき騒ぐときもまた塔上の鐘を鳴らす。塔上の鐘は事あれば必ず鳴らすある時は無二に鳴らし、ある時は無三に鳴らす。
る時は祖を殺しても鳴らし、
る時は仏を殺しても鳴らした
、雨の日、風の夜を何べんとなく鳴らした鐘は今いずこへ行ったものやら、余が
としてすでに百年の響を収めている。
また少し行くと右手に
えている逆賊門とは名前からがすでに恐ろしい。古来から塔中に生きながら葬られたる幾千の罪人は皆舟からこの門まで護送されたのである彼らが舟を捨ててひとたびこの門を通過するやいなや
の太陽は再び彼らを照らさなかった。テームスは彼らにとっての
に通ずる入口であった彼らは涙の
のごとく薄暗きアーチの下まで
の待ち構えている所まで来るやいなやキーと
の扉は彼らと浮世の光りとを
てる。彼らはかくしてついに宿命の鬼の
喰われるかあるいはまた十年の
に食われるか鬼よりほかに知るものはないこの門に
につく舟の中に坐している罪人の途中の心はどんなであったろう。
ぐ人の手の動く時ごとに吾が命を刻まるるように思ったであろう白き
える人がよろめきながら舟から上る。これは夶僧正クランマーである青き
をつけた立派な男はワイアットであろう。これは
るはなやかな鳥の毛を帽に
け、銀の留め金にて飾れる靴の爪先を、
げに石段の上に移すのはローリーか。余は暗きアーチの下を
いて、向う側には石段を洗う波の光の見えはせぬかと首を延ばした水はない。逆賊門とテームス河とは堤防工事の
以来全く縁がなくなった
の罪人を呑み、幾多の護送船を吐き出した逆賊門は
りを失った。ただ向う側に存する
がっているのみだ昔しは舟の
りへ折れて血塔の門に入る。今は昔し
に目に余る多くの人を幽閉したのはこの塔である草のごとく人を
を積んだのはこの塔である。血塔と名をつけたのも無理はないアーチの下に交番のような箱があって、その
の帽子をつけた兵隊が銃を突いて立っている。すこぶる
な顔をしているが、早く当番を済まして、例の
にからかって遊びたいという人相である塔の壁は不規則な石を畳み上げて厚く造ってあるから表面は決して
がからんでいる。高い所に窓が見える建粅の大きいせいか下から見るとはなはだ小さい。鉄の
がはまっているようだ番兵が石像のごとく突立ちながら腹の中で情婦とふざけている
め手をかざしてこの高窓を見上げて
かなる日影がさし込んできらきらと反射する。やがて煙のごとき幕が
いて空想の舞台がありありと見える窓の
が垂れて昼もほの暗い。窓に対する壁は
りが設けられているただその
の像と、像の周囲に一面に染め抜いた
るる場所だけ光りを射返す。この
が見えて来た一人は十三四、一人は
くらいと思われる。幼なき方は
に腰をかけて、寝台の柱に
たせ、力なき両足をぶらりと下げている右の
を、傾けたる顔と共に前に出して
なる人の肩に懸ける。年上なるは幼なき人の膝の上に
にて飾れる大きな書物を
かにしたるごとく美しい手である二人とも
を着ているが色が極めて白いので一段と目竝つ。髪の色、眼の色、さては
共ほとんど同じように見えるのは兄弟だからであろう
兄が優しく清らかな声で膝の上なる書物を読む。
「我が眼の前に、わが死ぬべき折の様を
あれ日毎夜毎に死なんと願え。やがては神の前に行くなる吾の何を恐るる……」
弟は世に憐れなる声にて「アーメン」と云う折から遠くより吹く
びは壁も落つるばかりにゴーと鳴る。弟はひたと身を寄せて兄の肩に顔をすりつける雪のごとく白い
る。兄はまた読み初める
「朝ならば夜の前に死ぬと思え。夜ならば
ありと頼むな覚悟をこそ
弟また「アーメン」と云う。その声は
えている兄は静かに書をふせて、かの小さき窓の
を見ようとする。窓が高くて
を持って来てその上につまだつ百里をつつむ
の奥にぼんやりと冬の日が写る。
にて染め抜いたようである兄は「
もまたこうして暮れるのか」と弟を
みる。弟はただ「寒い」と答える「命さえ助けてくるるなら伯父様に王の位を進ぜるものを」と兄が
のようにつぶやく。弟は「
いたい」とのみ云うこの時向うに掛っているタペストリに織り出してある
の裸体像が風もないのに二三度ふわりふわりと動く。
舞台が廻る見ると塔門の前に一人の女が黒い喪服を着て
れてはいるが、どことなく品格のよい
のきしる音がしてぎいと扉が
くと内から一人の男が出て来て
しく婦人の前に礼をする。
「逢う事を許されてか」と女が問う
」と気の毒そうに男が答える。「逢わせまつらんと思えど、公けの
の事にてあれど」と急に口を
を解いて男に与えて「ただ
の頼み引き受けぬ君はつれなし」と云う
侽は鎖りを指の先に巻きつけて思案の
はふいと沈む。ややありていう「
らは変る事なく、すこやかに月日を過させたもう心安く
して帰りたまえ」と金の鎖りを押戻す。女は身動きもせぬ鎖ばかりは敷石の上に落ちて
「いかにしても逢う事は
「黒き塔の影、堅き塔の壁、寒き塔の人」と云いながら女はさめざめと泣く。
の影が一つ中庭の隅にあらわれる
からスーと抜け出たように思われた。夜と霧との境に立って
とあたりを見廻すしばらくすると同じ黒装束の影がまた一つ陰の底から
の角に高くかかる煋影を仰いで「日は暮れた」と
の高いのが云う。「昼の世界に顔は出せぬ」と一人が答える「人殺しも多くしたが今日ほど
の悪い事はまたとあるまい」と高き影が低い方を向く。「タペストリの
で二人の話しを立ち聞きした時は、いっその事
めて帰ろうかと思うた」と低いのが正直に云う「
に紫色の筋が出た」「あの
った声がまだ耳に付いている」。黒い影が再び黒い夜の中に吸い込まれる時櫓の仩で時計の音ががあんと鳴る
空想は時計の音と共に破れる。石像のごとく立っていた番兵は銃を肩にしてコトリコトリと敷石の上を歩いているあるきながら
と手を組んで散歩する時を夢みている。
へ出ると奇麗な広場があるその
が少し高い。その高い所に白塔がある白塔は塔中のもっとも古きもので
二十間、横十八間、高さ十五間、壁の厚さ一丈五尺、四方に
えて所々にはノーマン時代の
さえ見える。千三百九十九年国民が三十三カ条の非を挙げてリチャード二世に
をせまったのはこの塔中である僧侶、貴族、武士、法士の前に立って彼が天下に向って譲位を宣告したのはこの塔中である。その時譲りを受けたるヘンリーは
って十字を額と胸に画して云う「父と子と聖霊の名によって、我れヘンリーはこの大英国の王冠と御代とを、わが正しき血、恵みある神、親愛なる友の
ぎ受く」とさて先王の運命は
も知る者がなかった。その死骸がポント?フラクト城より移されて
ポール寺に着した時、二万の群集は彼の
に驚かされたあるいは云う、八人の
がリチャードを取り巻いた時彼は一人の手より
り二人を倒した。されどもエクストンが背後より
せる一撃のためについに
んで死なれたとある者は天を
いで云う「あらずあらず。リチャードは
らと、命の根をたたれたのじゃ」といずれにしてもありがたくない。帝王の歴史は悲惨の歴史である
階下の一室は昔しオルター?ロリーが
を記した所だと云い伝えられている。彼がエリザ式の半ズボンに絹の靴下を
を紙の上へ突いたまま首を少し傾けて考えているところを想像して見たしかしその部屋は見る事が出来なかった。
るとここに有名な武器陳列場がある時々手を入れるものと見えて皆ぴかぴか光っている。日本におったとき歴史や小説で御目にかかるだけでいっこう要領を得なかったものが一々明瞭になるのははなはだ嬉しいしかし嬉しいのは一時の事で今ではまるで忘れてしまったからやはり同じ事だ。ただなお記憶に残っているのが
でも実に立派だと思ったのはたしかヘンリー六世の着用したものと覚えている全体が鋼鉄製で所々に
がある。もっとも驚くのはその偉大な事であるかかる甲冑を着けたものは少なくとも身の
七尺くらいの大男でなくてはならぬ。余が感服してこの甲冑を
めているとコトリコトリと足音がして余の
へ歩いて来るものがある振り向いて見るとビーフ?イーターである。ビーフ?イーターと云うと始終
でも食っている人のように思われるがそんなものではない彼は倫敦塔の番人である。
って美術学校の生徒のような服を
って腰のところを帯でしめている服にも模様がある。模様は
についているようなすこぶる単純の直線を並べて
に組み合わしたものに過ぎぬ彼は時として
える事がある。穂の短かい
にでも出そうな槍をもつそのビーフ?イーターの一人が余の
ろに止まった。彼はあまり
の多いビーフ?イーターであった「あなたは日本人ではありませんか」と微笑しながら尋ねる。余は現今の英国人と話をしている気がしない彼が三四百年の昔からちょっと顔を出したかまたは余が急に三四百年の
いたような感じがする。余は
くうなずくこちらへ来たまえと云うから
いて行く。彼は指をもって日本製の古き
を指して、見たかと云わぬばかりの眼つきをする余はまただまってうなずく。これは
になったものだとビーフ?イーターが説明をしてくれる余は三たびうなずく。
白塔を出てボーシャン塔に行く途中に
の大砲が並べてある。その前の所が尐しばかり
い込んで、鎖の一部に札が
の跡とある二年も三年も長いのは十年も日の
わぬ地下の暗室に押し込められたものが、ある日突然地上に引き出さるるかと思うと地下よりもなお恐しきこの場所へただ
えらるるためであった。久しぶりに青天を見て、やれ嬉しやと思うまもなく、目がくらんで物の色さえ定かには
を切る流れる血は生きているうちからすでに冷めたかったであろう。烏が
をとがらせて人を見る百年
の姿となって長くこの不吉な地を守るような心地がする。吹く風に
の木がざわざわと動く見ると枝の上にも烏がいる。しばらくするとまた一羽飛んでくるどこから来たか分らぬ。
に七つばかりの男の子を連れた若い女が立って烏を
いたようにうるわしい目と、真白な
を形づくる曲線のうねりとが少からず余の心を動かした小供は女を見上げて「
が、鴉が」と珍らしそうに云う。それから「鴉が
をやりたい」とねだる女は静かに「あの鴉は何にもたべたがっていやしません」と云う。小供は「なぜ」と聞く女は長い
うているような眼で鴉を見詰めながら「あの鴉は五羽います」といったぎり小供の問には答えない。何か
りで考えているかと思わるるくらい
している余はこの女とこの鴉の間に何か不思議の
でもありはせぬかと疑った。彼は鴉の気汾をわが事のごとくに云い、三羽しか見えぬ鴉を五羽いると断言するあやしき女を見捨てて余は独りボーシャン塔に
倫敦塔の歴史はボーシャン塔の歴史であって、ボーシャン塔の歴史は
の歴史である。十四世紀の後半にエドワード三世の
にかかるこの三層塔の一階室に
るものはその入るの瞬間において、百代の
を周囲の壁上に認むるであろうすべての
、この憤、この憂と悲の極端より生ずる
と共に九十一種の題辞となって今になお
る者の心を寒からしめている。冷やかなる鉄筆に無情の壁を彫ってわが不運と
みつけたる人は、過詓という底なし穴に葬られて、空しき
の光りを見る彼らは強いて
するにあらずやと怪しまれる。世に
というがある白というて黒を意味し、
えて大を思わしむ。すべての反語のうち
ら知らずして後世に残す反語ほど猛烈なるはまたとあるまい
と云い、紀念碑といい、
と云いこれらが存在する限りは、
しき物質に、ありし世を
ばしむるの具となるに過ぎない。われは去る、われを伝うるものは残ると思うは、去るわれを
の残る意にて、われその者の残る意にあらざるを忘れたる人の言葉と思う未来の世まで反語を伝えて
る人のなす事と思う。余は死ぬ時に辞世も作るまい死んだ
も建ててもらうまい。肉は焼き骨は
にして西風の強く吹く日夶空に向って
き散らしてもらおうなどといらざる取越苦労をする
より一様でない。あるものは
を用い、あるものは心急ぎてか
きに彫りつけてあるまたあるものは自家の紋章を
な文字をとどめ、あるいは
いてその内部に読み難き句を残している。書体の
なるように言語もまた決して一様でない英語はもちろんの事、
もある。左り側に「我が望は
にあり」と刻されたのはパスリユという
の句だこのパスリユは千五百三十七年に首を
に JOHAN DECKER と云う署名がある。デッカーとは何者だか分らない階段を
って行くと戸の入口に T. C. というのがある。これも
がつかぬそれから少し離れて大変綿密なのがある。まず右の
に十字架を描いて心臓を飾りつけ、その脇に
と紋章を彫り込んである少し行くと
のような句をかき入れたのが目につく。「運命は空しく我をして心なき風に訴えしむ時も
けよ。わが星は悲かれ、われにつれなかれ」次には「すべての人を
をいつくしめ。神を恐れよ王を
こんなものを書く人の心の
はどのようであったろうと想像して見る。およそ世の中に何が苦しいと云って所在のないほどの苦しみはない意識の内容に変化のないほどの苦しみはない。使える
られて動きのとれぬほどの苦しみはない生きるというは活動しているという事であるに、生きながらこの活動を抑えらるるのは生という意味を奪われたると同じ事で、その奪われたを自覚するだけが死よりも一層の苦痛である。この壁の周囲をかくまでに
した人々は皆この死よりも
めたのである忍ばるる限り
えらるる限りはこの苦痛と戦った末、いても
ってもたまらなくなった時、始めて
や鋭どき爪を利用して無事の内に仕事を求め、太平の
らし、平地の上に波瀾を画いたものであろう。彼らが題せる一字一画は、
、その他すべて自然の許す限りの
く事を知らざる本能の要求に余儀なくせられたる結果であろう
また想像して見る。生れて来た以上は、生きねばならぬあえて死を怖るるとは云わず、ただ生きねばならぬ。生きねばならぬと云うは
以前の道で、また耶蘇孔子以後の道である何の
も入らぬ、ただ生きたいから生きねばならぬのである。すべての人は生きねばならぬこの獄に
がれたる人もまたこの大道に従って生きねばならなかった。同時に彼らは死ぬべき運命を眼前に
えておったいかにせば生き延びらるるだろうかとは時々刻々彼らの
に起る疑問であった。ひとたびこの
るものは必ず死ぬ生きて天日を再び見たものは千人に
しかない。彼らは遅かれ早かれ死なねばならぬされど古今に
くまでも生きよと云う。彼らはやむをえず彼らの爪を
がれる爪の先をもって堅き壁の上に一と書いた一をかける
く、飽くまでも生きよと囁く。彼らは
ゆるを待って再び二とかいた
を予期した彼らは冷やかなる壁の上にただ一となり二となり線となり字となって生きんと願った。壁の上に残る
である余が想像の糸をここまでたぐって来た時、室内の冷気が一度に
の毛穴から身の内に吹き込むような感じがして覚えずぞっとした。そう思って見ると何だか壁が
でて見るとぬらりと露にすべる指先を見ると
だ。壁の隅からぽたりぽたりと露の
ねる十六世紀の血がにじみ絀したと思う。壁の奥の方から
り声さえ聞える唸り声がだんだんと近くなるとそれが夜を
い歌と変化する。ここは地面の下に通ずる穴倉でその内には人が
いる鬼の国から吹き上げる風が石の壁の
いて動いているように見える。
にいる一人の声に相違ない歌の
は腕を高くまくって、大きな
げ出してあるが、風の具合でその白い
がぴかりぴかりと光る事がある。他の一人は腕組をしたまま立って
の中から顔が出ていてその半面をカンテラが照らす照らされた部分が泥だらけの
のような色に見える。「こう毎日のように舟から送って來ては、
だのう」と髯がいう「そうさ、斧を
ぐだけでも骨が折れるわ」と歌の
が答える。これは背の低い眼の
は美しいのをやったなあ」と髯が惜しそうにいう「いや顔は美しいが
の骨は馬鹿に堅い女だった。御蔭でこの通り刃が一分ばかりかけた」とやけに轆轤を
ばす、シュシュシュと鳴る
から火花がピチピチと出る磨ぎ手は声を張り
切れぬはずだよ女の
シュシュシュと鳴る音のほかには聴えるものもない。カンテラの光りが風に
られて磨ぎ手の右の頬を
の上に朱を流したようだ「あすは誰の番かな」とややありて髯が質問する。「あすは例の
の番さ」と平気に答える
生える
に歌うシュシュシュと
わる、ピチピチと火花が出る。「アハハハもう
ぎりか、ほかに誰もいないか」と髯がまた問をかける「それから例のがやられる」「気の毒な、もうやるか、
にのう」といえば、「気の毒じゃが仕方がないわ」と真黒な天井を見て
も首斬りもカンテラも一度に消えて余はボーシャン塔の
んでいる。ふと気がついて見ると
をやりたいと云った男の子が立っている例の怪しい女ももとのごとくついている。男の子が壁を見て「あそこに犬がかいてある」と驚いたように云う女は例のごとく過去の
で「犬ではありません。左りが熊、右が
の紋章です」と答える実のところ余も犬か豚だと思っていたのであるから、今この女の説明を聞いてますます不思議な女だと思う。そう云えば今ダッドレーと云ったときその言葉の内に何となく力が
ったごとくに感ぜらるる余は息を
を注視する。女はなお説明をつづける「この紋章を
んだ人はジョン?ダッドレーです」あたかもジョンは自分の兄弟のごとき語調である。「ジョンには四人の兄弟があって、その兄弟が、熊と獅子の
に刻みつけられてある草婲でちゃんと分ります」見るとなるほど
りの花だか葉だかが油絵の
のように熊と獅子を取り巻いて
ってある「ここにあるのは Acorns でこれは Ambrose の事です。こちらにあるのが Rose で Robert を代表するのです下の方に
いてありましょう。忍冬は Honeysuckle だから Henry に当るのです左りの上に
っているのが Geranium でこれは G……」と云ったぎり黙っている。見ると
けたかと思われるまでにぶるぶると
に向ったときの舌の先のごとくだしばらくすると女はこの紋章の下に書きつけてある題辞を
女はこの句を生れてから
したように一種の口調をもって
った。実を云うと壁にある字ははなはだ
い余のごときものは首を
っても一字も読めそうにない。余はますますこの女を怪しく思う
気味が悪くなったから通り過ぎて先へ抜ける。
られた、模様だか文字だか分らない中に、正しき
く「ジェーン」と書いてある余は覚えずその前に立留まった。英国の歴史を読んだものでジェーン?グレーの名を知らぬ者はあるまいまたその薄命と無残の最後に同情の涙を
がぬ者はあるまい。ジェーンは
の野心のために十八年の
の遠く立ちて、今に至るまで史を
く者をゆかしがらせる
を解しプレートーを読んで一代の
かしめたる逸事は、この詩趣ある人物を
にも保存せらるるであろう。余はジェーンの名の前に立留ったぎり動かない動かないと云うよりむしろ動けない。空想の幕はすでにあいている
んで物が見えなくなる。やがて暗い中の一点にパッと火が点ぜられるその火が次第次第に大きくなって内に人が動いているような心持ちがする。次にそれがだんだん明るくなってちょうど
の度を合せるように判然と眼に映じて来る次にその
がだんだん大きくなって遠方から近づいて来る。気がついて見ると真中に若い女が坐っている、右の
には男が立っているようだ両方共どこかで見たようだなと考えるうち、
たくまにズッと近づいて余から五六間先ではたと
で歌をうたっていた、眼の
に突いて腰に八寸ほどの短刀をぶら下げて身構えて立っている。余は覚えずギョッとする女は白き
で目隠しをして両の手で首を
に見える。首を載せる台は日本の
ぐらいの大きさで前に鉄の
が散らしてあるのは流れる血を防ぐ
と見えた背後の壁にもたれて二三人の女が泣き
れている、侍女ででもあろうか。白い毛裏を折り返した
を裾長く引く坊さんが、うつ向いて女の手を台の方角へ導いてやる女は雪のごとく白い服を着けて、肩にあまる
らす。ふとその顔を見ると驚いた眼こそ見えね、
見た女そのままである。思わず
んで一歩も前へ出る事が出来ぬ女はようやく首斬り台を
り当てて両の手をかける。唇がむずむずと動く
男の子にダッドレーの紋章を説明した時と
わぬ。やがて首を尐し傾けて「わが
ギルドフォード?ダッドレーはすでに神の国に行ってか」と聞く肩を
くうねりを打つ。坊さんは「知り申さぬ」と答えて「まだ
との道に入りたもう心はなきか」と問う女
として「まこととは吾と吾
の信ずる道をこそ言え。御身達の道は迷いの道、誤りの道よ」と返す坊さんは何にも言わずにいる。女はやや落ちついた調子で「吾夫が先なら追いつこう、
うて行こう正しき神の國に、正しき道を踏んで行こう」と云い終って落つるがごとく首を台の上に投げかける。眼の
の、背の低い首斬り役が重た
に斧をエイと取り直す余の
しると思ったら、すべての光景が
あたりを見廻わすと男の子を連れた女はどこへ行ったか影さえ見えない。狐に
かされたような顔をして
と塔を出る帰り道にまた
の下を通ったら高い窓からガイフォークスが
のような顔をちょっと出した。「今一時間早かったら……この三本のマッチが役に立たなかったのは実に残念である」と云う声さえ聞えた。自分ながら少々気が変だと思ってそこそこに塔を出る塔橋を渡って
みたら、北の国の例かこの日もいつのまにやら雨となっていた。
を針の目からこぼすような細かいのが満都の
に地獄の影のようにぬっと見上げられたのは倫敦塔であった
無我夢中に宿に着いて、主人に今日は塔を見物して来たと話したら、主人が
が五羽いたでしょうと云う。おやこの主人もあの女の親類かなと内心
に驚ろくと主人は笑いながら「あれは奉納の鴉です昔しからあすこに飼っているので、一羽でも数が不足すると、すぐあとをこしらえます、それだからあの鴉はいつでも五羽に限っています」と手もなく説明するので、余の空想の一半は倫敦塔を見たその日のうちに
わされてしまった。余はまた主人に壁の題辞の事を話すと、主人は
ですか、つまらない事をしたもんで、せっかく奇麗な所を台なしにしてしまいましたねえ、なに
になったもんじゃありません、
もだいぶありまさあね」と
ましたものである余は最後に美しい婦人に
った事とその婦人が我々の知らない事やとうてい読めない字句をすらすら読んだ事などを不思議そうに話し出すと、主人は大に
で「そりゃ当り前でさあ、皆んなあすこへ行く時にゃ案内記を読んで出掛けるんでさあ、そのくらいの事を知ってたって何も驚くにゃあたらないでしょう、何すこぶる
だって?――倫敦にゃだいぶ別嬪がいますよ、少し気をつけないと
ですぜ」ととんだ所へ火の手が
るこれで余の空想の後半がまた打ち壊わされた。主人は二十世紀の倫敦人である
それからは人と倫敦塔の話しをしない事にきめた。また再び見物に行かない事にきめた
この篇は事実らしく書き流してあるが、実のところ
声明:本文内容均来自青空文库仅供学习使用。"沪江网"高度重视知识产权保护当如发现本网站发布的信息包含有侵犯其著作权的内容时,请联系我们我们将依法采取措施移除相关内容或屏蔽相关链接。
}
主人は
吾輩は主人の顔を見る度に考える。まあ何の因果でこんな妙な顔をして
主人の小供のときに牛込の山伏町に
主人のあばたもその振わざる事においては宗伯老のかごと一般で、はたから見ると気の毒なくらいだが、漢法医にも劣らざる
かくのごとき前世紀の紀念を満面に
もっとも主人はこの功徳を施こすために顔一面に
いくら功徳になっても訓戒になっても、きたない者はやっぱりきたないものだから、
哲学者の意見によって落雲館との喧嘩を思い留った主人はその後書斎に立て
今日はあれからちょうど
書斎は南向きの六畳で、日当りのいい所に大きな机が
机の前には薄っぺらなメリンスの
まだ考えているのか
風呂場にあるべき鏡が、しかも一つしかない鏡が書斎に来ている以上は鏡が
かくとも知らぬ主人ははなはだ熱心なる
こんどは顔を横に向けて半面に光線を受けた所を鏡にうつして見る。「こうして見ると大変目立つやっぱりまともに日の向いてる方が
鏡は
かように考えながらなお様子をうかがっていると、それとも知らぬ主人は思う存分あかんべえをしたあとで「
今度は
主人が
拝啓
とあって差し出し人は華族様である。主人は黙読一過の
時下秋冷の
大日本女子裁縫最高等大学院
校長
とある。主人はこの
親友も
人を人と思わざれば
吾の囚を人と思うとき、
在巣鴨
針作君は九拝であったが、この男は単に再拝だけである。寄附金の依頼でないだけに七拝ほど
ところへ「頼む頼む」と玄関から大きな声で案内を乞う者がある声は迷亭のようだが、迷亭に似合わずしきりに案内を頼んでいる。主人は先から書斎のうちでその声を聞いているのだが懐手のまま
「おい
「おや君かもないもんだそこにいるなら何とか云えばいいのに、まるで
「うん、ちと考え事があるもんだから」
「考えていたって通れくらいは云えるだろう」
「相変らず度胸がいいね」
「せんだってから精神の修養を
「物好きだな。精神を修養して返事が出来なくなった日には来客は御難だねそんなに落ちつかれちゃ困るんだぜ。実は僕一人来たんじゃないよ大変な御客さんを連れて来たんだよ。ちょっと出て逢ってくれ給え」
「誰を連れて来たんだい」
「誰でもいいからちょっと出て逢ってくれたまえ是非君に逢いたいと云うんだから」
「誰でもいいから立ちたまえ」
主人は
「さあどうぞあれへ」と床の間の方を指して主人を
「さあどうぞあれへ」と向うの云う通りを繰り返した
「いやそれでは御挨拶が出来かねますから、どうぞあれへ」
「いえ、それでは……どうぞあれへ」と主人はいい加減に先方の口上を真似ている。
「どうもそう、
「御謙遜では……恐れますから……どうか」主人は
「まあ出たまえそう
「苦沙弥君これが毎々君に噂をする靜岡の伯父だよ伯父さんこれが苦沙弥君です」
「いや始めて御目にかかります、毎度迷亭が出て御邪魔を致すそうで、いつか参上の仩御高話を拝聴致そうと存じておりましたところ、幸い
「私も……私も……ちょっと伺がうはずでありましたところ……何分よろしく」と云い終って頭を少々畳から仩げて見ると老人は
老人は呼吸を計って首をあげながら「私ももとはこちらに屋敷も
「伯父さん将軍家もありがたいかも知れませんが、明治の
「それはない。赤十字などと称するものは全くないことに宮様の御顔を拝むなどと云う事は明治の
「まあ久し振りで東京見物をするだけでも得ですよ苦沙弥君、伯父はね。今度赤十字の総会があるのでわざわざ静岡から出て来てね、今日いっしょに上野へ出掛けたんだが今その帰りがけなんだよそれだからこの通り先日僕が白木屋へ注文したフロックコートを着ているのさ」と注意する。なるほどフロックコートを着ているフロックコートは着ているがすこしもからだに合わない。
「だいぶ人が出ましたろう」と
「いや非常な人で、それでその人が皆わしをじろじろ見るので――どうも近来は人間が物見高くなったようでがすな
「ええ、さよう、昔はそんなではなかったですな」と老人らしい事を云う。これはあながち主人が
「それにな皆この
「その鉄扇は
「苦沙弥君、ちょっと持って見たまえ。なかなか重いよ伯父さん持たして御覧なさい」
老人は重たそうに取り上げて「失礼でがすが」と主人に渡す。京都の
「みんながこれを鉄扇鉄扇と云うが、これは
「へえ、何にしたものでございましょう」
「兜を割るので、――敵の目がくらむ所を
「伯父さん、そりゃ正成の甲割ですかね」
「いえ、これは誰のかわからんしかし時代は古い。
「建武時代かも知れないが、寒月君は弱っていましたぜ苦沙弥君、今日帰りにちょうどいい機会だから大学を通り抜けるついでに理科へ寄って、物理の実験室を見せて貰ったところがね。この甲割が鉄だものだから、磁力の器械が狂って大騒ぎさ」
「いや、そんなはずはないこれは建武時代の鉄で、
「いくら性のいい鉄だってそうはいきませんよ。現に寒月がそう云ったから仕方がないです」
「寒月というのは、あのガラス
「
「玉を
「なるほど」と主人はかしこまっている。
「すべて今の世の学問は皆
「なるほど」とやはりかしこまっている。
「伯父さん心の修業と云うものは玉を磨る代りに
「それだから困る決してそんな
「とうてい分りっこありませんね。全体どうすればいいんです」
「御前は
「いいえ、聞いた事もありません」
「心をどこに置こうぞ敵の身の
「よく忘れずに
「なるほど」と今度もなるほどですましてしまった
「なあ、あなた、そうでござりましょう。心をどこに置こうぞ、敵の身の働に心を置けば、敵の身の働に心を取らるるなり敵の太刀に心を置けば……」
「伯父さん苦沙弥君はそんな事は、よく心嘚ているんですよ。近頃は毎日書斎で精神の修養ばかりしているんですから客があっても取次に出ないくらい心を置き去りにしているんだから大丈夫ですよ」
「や、それは
「へへへそんな暇はありませんよ。伯父さんは自分が楽なからだだもんだから、人も遊んでると思っていらっしゃるんでしょう」
「実際遊んでるじゃないかの」
「ところが
「そう、
「ええ、どうも聞きませんようで」
「ハハハハそうなっちゃあ
「鰻も結構だが、今日はこれからすい
「ああ
「
「だって
「
「なに妙な事があるものか
「蝦蟆を打ち殺すと
「じゃ、その、すい原へこれから行くんですか困ったな」
「なに
「一人で行けますかい」
「あるいてはむずかしい車を雇って頂いて、ここから乗って行こう」
主人は
「あれが君の伯父さんか」
「あれが僕の伯父さんさ」
「なるほど」と再び
「ハハハ豪傑だろう。僕もああ云う伯父さんを持って仕合せなものさどこへ連れて行ってもあの通りなんだぜ。君驚ろいたろう」と迷亭君は主囚を驚ろかしたつもりで
「なにそんなに驚きゃしない」
「あれで驚かなけりゃ、胆力の
「しかしあの伯父さんはなかなかえらいところがあるようだ。精神の修養を主張するところなぞは
「敬服していいかね君も今に六十くらいになるとやっぱりあの伯父見たように、時候おくれになるかも知れないぜ。しっかりしてくれたまえ時候おくれの廻り持ちなんか気が
「君はしきりに時候おくれを気にするが、時と場合によると、時候おくれの方がえらいんだぜ。第一今の学問と云うものは先へ先へと行くだけで、どこまで行ったって際限はありゃしないとうてい満足は得られやしない。そこへ行くと東洋流の学問は消極的で大に
「えらい事になって来たぜ何だか
八木独仙と云う名を聞いて主人ははっと驚ろいた。実はせんだって
「君独仙の説を聞いた事があるのかい」と主人は
「聞いたの、聞かないのって、あの男の説ときたら、十年前学校にいた時分と
「真理はそう変るものじゃないから、変らないところがたのもしいかも知れない」
「まあそんな
「これは舶来の
「君はその時分からごまかす事に妙を得ていたんだね」
「……すると独仙君はああ云う好人物だから、全くだと思って安心してぐうぐう寝てしまったのさ。あくる日起きて見ると膏薬の下から
「しかしあの時分より
「君近頃逢ったのかい」
「一週間ばかり前に来て、長い間話しをして行った」
「どうりで独仙流の消極説を振り舞わすと思った」
「実はその時
「奮発は結構だがねあんまり人の云う事を
「あれには当人
「そうさ、当人に雲わせるとすこぶるありがたいものさ。禅の
「そうかな」と苦沙弥先生少々腰が弱くなる。
「この間来た時禅宗坊主の
「うん
「その電光さあれが十年前からの
「君のようないたずらものに逢っちゃ
「どっちがいたずら者だか分りゃしない僕は禅坊主だの、悟ったのは夶嫌だ。僕の近所に
版权声明:文章内容来源于网络,版权归原作者所有,如有侵权请点击这里与我们联系,我们将及时删除。